エボークトセットとは?基礎知識を解説します【デザイナー、必須のマーケ知識】
ブランディングなどビジネスの上流から関わりたいデザイナーは、今回の「エボークトセット」という概念は必ず理解しておいた方がいいです。
目次
エボークトセットとは?
「選ばれるブランド」になるために重要な概念「エボークトセット(Evoked Set)」。
エボークトセットとは「ファーストフード食べたいな」「サウナ行こうかな」などなにか行動する時に、好意的に思い浮かべるブランドの選択肢です。
例えば「コーヒー飲みに行こうかな?」と考えた時に、コメダ珈琲店、ドトールコーヒー、スターバックス、タリーズ、近所の喫茶店とか思い浮かびますよね。
こうした何か行動を起こす際に、意識的にせよ、無意識的にせよ、最適な選択を行えるよう枠組み(=選択群)こそエボークトセットなのです。
そもそもユーザーは商品やブランドに対して、無数の選択肢を持っていません。
相当詳しい人でない限り、選択肢はせいぜい3つ、多くて5つ程度です。要はユーザーは自分が購入するブランドの選択において、意識的または無意識的にスクリーニングを行っているわけで、それぞれ自分なりのエボークトセットを形成しているのです。
そして、エボークトセットの中で一番最初に思い浮かぶ第一想起ブランドです。
第一想起されるブランドは選ばれる率が高くて、相当ブランドとして強く、売り上げも見込めます。
どうして「エボークトセット」がつくられる?
人は商品やブランドを選ぶ際、限られた選択肢の中から選ぼうとする。これがエボークトセットです。
でもここで思いませんか?
なんでわざわざエボークトセットなんてつくるんだろうと。そもそも、人間はそんな“制約”をかける必要があるのか??
選択へのストレス軽減
僕が考えるに、その理由は、人間の生来に備わっている傾向、つまり情報過多による意思決定の負担を避けるためだと考えます。一度自分の行動を思い浮かべてみてください。選択肢って、与えられれば与えられるほど、脳に負担かかりませんか?そもそもどう選んでいいんだろう?と基準も示されていなければ尚更です。
選択肢は増えると情報の処理や評価が複雑化します。すると認知的な負荷がかかります。これは、選択麻痺という現象ですね。
だから人間は自らスクリーニングをかけてエボークトセットをつくることで、脳の負荷を軽減させて、ストレスなく選択できるようにしているのです。エボクート
セットとは裏を返せば、「確実で安心な選択肢」なのです。
損失回避の心理
また「損失回避の心理」も理由のひとつです。
損失回避の心理において、人は潜在的な損失を回避しようとします。
ここで大切なのは、人間は何かを獲得するよりも、何かを失うことに対して強く反応する傾向があるということ。
だから損失を避けるためにも人々はエボークトセットを作ることによって、損失がないように、スクリーニングをかけて、安定性や確実性を求めた選択を行おうとするのです。
ブランドカテゴリゼーションの5つの段階
エボークトセットは、ブランドカテゴリゼーション5つの段階(入手可能性→知名段階→処理段階→考慮段階→選考段階)のうち、考慮段階に位置する「想起集合」に該当します。
ちなみにブランドカテゴリゼーションとは、ユーザーが購入するブランドを決定するまでの一連の流れを類型化する枠組みのことです。
- 【入手可能性】「入手可能集合」は、私たちが物理的(距離的に)手に入れることのできるブランドの集合です。
- 【知名段階】上記の集合は、名前を知っている「知名集合」と、名前を知らない「非知名集合」に分けられます。
- 【処理段階】さらに「知名集合」は単に名前のみを知っている「非処理集合」と、ブランドの特徴まで知っている「処理集合」に分かれます。
- 【考慮段階】「処理集合」は、今回テーマになっている「想起集合」(購入候補)、購入したいとは思わない「拒否集合」、何らかの理由で購入を思いとどまっている「保留集合」に類型化されます。
- 【選考段階】「想起集合」は最終的な選考段階として、一番の候補である「第一想起」とその他の「その他の想起集合」に分けられます。
エボークトセットの例
2021年4月30日、株式会社ネオマーケティングはブランド・カテゴライゼーションに基づいてエボークトセット(想起集合)に関する調査を実施しています。
(出典:ネオマーケティング)
調査では「虫歯予防」というカテゴリーを例に挙げています。
調査対象は歯磨き粉を自分で購入して毎日使っている生活者1000名です。
このカテゴリーにおけるエボークトセットは、「クリニカ」「GUM」が上位、その後に次ぐのが「シュミテクト」です。
そして想起理由としては、下記のとおりです。
「クリニカ」は
- 「使い慣れる」
- 「フッ素」
- 「配合」
「GUM」=予防
- 「歯周病」
- 「虫歯」
- 「効能」
「シュミテクト」
- 「知覚」
- 「過敏」
エボークトセットで覚えておくべきポイント
1. 場面やシーンによりエボークトセットは異なる
エボークトセットは、状況や場面に応じて最適な枠組みを作ろうとします。
例えば、ビジネスシーンでの使用に適したブランドだったり、スポーツシーンでの使用に適したブランドだったり。
さらに言えば、自身の生活スタイルや好みに合わせて設計していきます。
だから、どのようなエボークトセットを考える時には、ブランドターゲットとなる人となりを想像して、「ブランドの利用シーン」に合わせて形成してあげたほうがいいです。
2.印象が一番大事!
エボークトセットでは印象がものすごい重要です。
これは先程のブランドカテゴライゼーションでいえば、【考慮段階】で「拒否集合」と「保留集合」に分けられるか、というところで問題になってくることです。
印象は自ら体験したことではなくとも、例えばCMやSNSなどのプロモーションから受ける印象、他者から寄せられる口コミでもいいです。
例えば、友達がすでに使用している、あるいは過去に利用したことがあったとしたら、「使いにくかった」「ちょっと高すぎた」こうした理由からブランドを否定的に見られていた場合、非常に
とにかくブランドに対する印象が良ければ良いほど、ブランドがエボークトセットに入りやすいです。
エボークトセットに入るためデザイナーが意識することは?
ユーザーから選ばれるブランドになるためには、商品やブランドがエボークトセットに入ることが重要だということは分かったと思います。
ではどうデザイナーがエボークトセットに入るような施策を考えればいいでしょうか。
強い想起ポイントをつくる
今回は工務店を例にとってみます。
家づくりを検討しているユーザーは「家を買いたい」というニーズが根っこにあります。でもそれだけだと、選択肢は無数ですよね。
ユーザーはある工務店を選ぶ時には特定の理由を持っています。それは例えば「ハウスメーカーよりも社長の人柄が良かった」「施工の実例をみて、デザイン的に好みのテイスト」などです。実はこれらがブランドを想起するきっかけになるポイントになってくれているのです。
なのでこういった想起ポイントを、自社の強みに合わせてこちら側が作ってあげるのです。
それは例えば「めちゃくちゃ人柄が出ている。親切そうな接客してくそう」でもいいです。
とにかくユーザーが家づくりをするときの強い想起ポイントを作ることが重要です。
これをカテゴリーエントリーポイントといいます。
想起ポイントに合わせた、クリエイティブを。
もし「めちゃくちゃ人柄が出ている。親切そうな接客してくそう」という想起ポイントをつくりたいなら、すべてのクリエイティブで同じイメージを喚起させましょう。それ例えばブランドメッセージだったり、写真の印象だったりです。
それらを広告、地域イベントへの協賛、オフライン広告(新聞広告)、SNSなどさまざまなチャネルにおいて、同じ印象を与えるようにします。
これにより、ユーザーはブランドを頻繁に目にすることで、その想起が強まります。
まとめ
エボークトセットは、ブランディングにおいて非常に重要な概念です。ユーザーの頭の中で浮かぶ限られた選択肢であるエボークトセットに入ることが、選ばれるブランドとなるための第一歩です。エボークトセットは場面やシーンによって異なり、市場浸透率とリピート率の関係も考慮する必要があります。 <p>エボークトセットに入るためには、強い想起ポイントを作り、カテゴリーエントリーポイントを考慮することが重要です。また、特定のカテゴリーに絞ったブランド育成を行うことで、トップの地位を獲得する可能性があります。</p> <p>ブランディングにおいてエボークトセットの概念を理解し、適切な戦略を立てることは、選ばれるブランドとしての競争力を高めるために欠かせません。</p>