【デザイナーの仕事術】脳ネットワークの理解することで発想力UP!?

  • デザイン

こんにちは!デザイナーやディレクターとして日々クリエイティブワークに向き合う中で、こんな経験はありませんか?

  • 締切直前なのにアイデアが出ない。画面を見つめたまま何時間も無駄にする。
  • シャワー中や散歩中に突然ひらめく。「なんで今!?」と自分で驚く。
  • 作業中に頭がぼんやりする。それなのに、いざ席を立つと妙にスッキリする。

この不思議な現象の裏には、あなたの脳内で起きている「3つのネットワーク」の仕組みが関係しています。

この記事では、デザイナーやディレクターがパフォーマンスを最大化するために知っておくべき脳のメカニズムと、その実践法をわかりやすくお伝えします。読み終える頃には、アイデアが枯渇するあの辛い時間とサヨナラできるかもしれません。

これだけは覚えておこう、3つの段階・脳内ネットワーク

段階 優位な脳機能 特徴
アイデア発想段階 DMN(デフォルトモードネットワーク) • ぼんやりと考えている「マインドワンダリング」の状態でひらめきが生まれる
• DMNが過去の経験や知識を新しい方法で結びつけることで創造性が発揮される
状態の切り替え セイリエンスネットワーク • 発想から実行へと移行する際の注意の切り替えを調整する
• 重要な情報を検出し、適切な脳ネットワークを活性化させる
作業・修正段階 ワーキングメモリ • 実際の作業に取り組む際には、論理的思考と集中力が必要になる
• この段階では詳細な作業と修正に焦点が当てられる
状態の再切り替え セイリエンスネットワーク • 作業モードから評価モードへの移行を制御する
• 完成作品の重要な側面に注意を向ける
完成イメージの内省段階 DMN(デフォルトモードネットワーク) • 「これでいいのか?」と作品全体を振り返る過程
• 直感的な判断や全体像の評価においてDMNが再び重要な役割を果たす

脳を支配する3つのネットワーク

ワーキングメモリネットワーク(集中モード)

  • 配色やフォントを微調整しながら、ピクセル単位でレイアウトを詰める。
  • クライアントの修正指示を具体的なタスクに落とし込む。
  • デザインの完成度をチェックしながら細部を仕上げる。

こうした集中力と論理的思考を必要とする作業は、ワーキングメモリネットワークが主導しています。

ワーキングメモリネットワークとは、前頭前皮質を中心に形成されていて、注意力の維持、論理的思考、計画立案、複雑な判断を担っています。

「この色のコントラスト比は適切か」、「コードに不具合はないか?」」「このアニメーションの速度はユーザビリティを損なわないか」こうした分析的な判断はすべてワーキングメモリネットワークの仕事です。

しかし、このネットワークには弱点があります。

脳のエネルギー消費量の実に70%をこのネットワークが使用するという研究結果があるほど、極めて高負荷な処理を担当しているのです。長時間の集中作業後に感じるあの疲労感、思考力の低下、注意散漫な状態—これらはワーキングメモリネットワークが疲弊しているサインです。

私自身、ロゴデザインの修正に6時間ぶっ通しで取り組んだ際、途中でブランドカラーのHEXコードが思い出せなくなったことがあります。完全に脳がオーバーヒートしていたんです。

②デフォルトモードネットワーク(DMN)=創造性の源泉

対照的に、「ぼんやりしているとき」の創造の源泉となるのがデフォルトモードネットワーク(DMN)。

  • コーヒーを片手に窓の外をぼんやり眺めているとき
  • 通勤中に音楽を聴きながら風景を流し見ているとき
  • シャワーを浴びているとき

こうしたリラックスした状態でひらめく瞬間は、デフォルトモードネットワークが活性化しています。このネットワークは内側前頭前皮質や楔前部などを含み、自己参照的思考、記憶の整理、未来の想像、物語の構築といった機能を担っています。

驚くべきことに、このネットワークは「何もしていない」ときに最も活発です。
つまり、「サボっている」と思っていた時間が、実は脳内ではアイデアが生まれ続けているゴールデンタイムなのです。「ぼーっとしている」時間は脳科学的には極めて重要な時間だったわけです!

「このビジュアルで顧客はどう感じるだろう」「このUIはユーザーの期待とどう共鳴するだろう」といった共感的・直感的な理解もDMNの助けがあってこそ。

一方で、DMNには注意が必要です。

過剰に働きすぎるとネガティブ思考に引きずり込まれます。

  • 「このデザインは本当に良いのか?」
  • 「他のクリエイターの方が優れているかも…」

締切前に不安で頭がいっぱいになり、手が止まってしまう—これはDMNの暴走状態と言えるでしょう。

③セイリエンスネットワーク—脳の交通整理人

そして、これら二つのネットワークを適切に切り替える役割を担っているのが、セイリエンスネットワークです。

島皮質と前帯状皮質を中心に構成されるこのネットワークは、内外の刺激の中から「今、注目すべきもの」を選別し、適切な脳のモードに切り替える交通整理人のような存在です。

長時間デスクに向かってデザイン作業をしていると、やがて「そろそろ休憩しよう」と感じる瞬間がきます。これはセイリエンスネットワークが「ワーキングメモリが疲弊している」という内部信号を検知し、DMNに切り替えるよう促している状態です。

逆に、リラックスしているときに「あ、あのプロジェクトのアイデアが浮かんだ!」と感じるのも、セイリエンスネットワークがDMNで生まれたアイデアの重要性を検知し、ワーキングメモリに切り替えるよう促しているからです。

セイリエンスネットワークがしっかり働いていると、集中と発想のバランスが取れている状態になります。しかし、タスクを詰め込みすぎたり、通知や割り込みが多いと、このネットワークは過負荷になり、スムーズな切り替えができなくなります。

クリエイティブ脳の使いこなし方【脳ネットワーク活用術】

優れたデザインやクリエイティブワークが生まれる過程を分析すると、そこには明確なパターンが見えてきます。アイデア発想(DMN優位)と具体的作業(ワーキングメモリ優位)をうまく使いこなすと、よりクリエイティブなデザインがつくれるようになります。

アイデアと作業を「分離」するタイムブロッキング

多くのデザイナーは、発想と作業を同時にやろうとして脳を疲弊させています。
しかし、脳科学的には発想(DMN)と作業(ワーキングメモリ)は別フェーズで分けた方が効率的です。

僕は日々のクリエイティブワークで脳のモードをうまく切り替えながら仕事をしていますが、めちゃくちゃ効率的なんです。例えば、朝はまだ頭が柔らかいので、あえてPCを開かずに「発想タイム」にしています。デスクに座ったままでもOK。僕の場合はコーヒーを淹れて、手元に紙のノートを広げます。スマホも閉じて、ただ思いついたことを気ままに書き出す。アイデアの良し悪しは気にせず、とにかく頭に浮かんだものをそのまま出す感じです。

この時間は「生産性」とは無縁。脳を自由に泳がせるイメージです。脳科学では、こういうリラックスした状態でDMN(デフォルトモードネットワーク)が活性化して、創造性がグッと高まると言われています。

で、その後は「作業モード」にスイッチ。実際は単に気持ちを切り替えて、PCに向かいます。このフェーズではワーキングメモリをフル稼働させて、タスクを具体化。カジュアルに言うと、「ノートで広げたふわっとしたアイデアをガチ作業で形にする」って感じです。

ここで意識しているのは「ディープワーク」。通知はオフにして、メールやチャットも閉じる。90分間だけは集中ゾーンに入り込みます。これ、意外と効果絶大で、それまで2〜3日かかっていたデザイン案が1日で仕上がるようになりました。

広く捉えて→絞り込んで→発散して→最適解へ

実は、デザイン業界でよく知られている「ダブルダイヤモンド」プロセスも、この脳のモード切り替えを体現しています。

ざっくり言うと、最初に問題を広く捉えて(発散・DMN)、次に絞り込む(集束・ワーキングメモリ)。続いてアイデアを広げ(発散・DMN)、最適解に落とし込む(集束・ワーキングメモリ)──この繰り返しでプロジェクトを進めていくフローです。

僕が手がけたブランドサイトリニューアルでも、このプロセスを意識しました。

まず着手したのは競合分析やトレンドリサーチ。ここでは「とにかく面白そうなものを片っ端から集める」スタンスで、SNSや海外の事例、アートやファッションの動向まで幅広くチェック。頭に引っかかったものは全部ノートメモに記録しました。ここはまさにDMNが優位に働く発散フェーズ。理屈抜きで「これ、いいな」と直感的に思ったものをかき集めます。

で、その次が肝心の絞り込み。ここからはワーキングメモリの出番です。集めた情報を整理して、クライアントの要望とすり合わせながら方向性を3つに絞りました。この段階では、「ただ面白い」だけではダメで、ロジカルに戦略を詰めていきます。「この路線ならターゲット層に響くか?」「競合と差別化できるか?」といった視点で精査しました。

方向性が固まったら、再びDMNにバトンタッチ。今度はビジュアルイメージを思いっきり膨らませます。キーワードを元にムードボードを作りながら、色や質感の雰囲気を自由に広げていく。ここは「アイデアが湧くままに泳がせる」フェーズです。

最後に、具体的なロゴデザインやカラーパレット、タイポグラフィを作り込む段階に入ります。この実務作業は完全にワーキングメモリが主役。ツールを駆使しながら細部を詰め、全体の整合性を徹底的にチェックして仕上げました。

この一連の流れを通して改めて実感したのは、脳のモードに合わせて仕事の質が変わるということ。発散と集束をうまく切り替えることで、単なる「作業」ではなく、アイデアに深みと説得力が生まれます。

結局、クリエイティブな仕事って「右脳だけ」「左脳だけ」じゃダメなんですよね。DMNとワーキングメモリを行ったり来たりするからこそ、いいものが生まれるんだなと改めて感じました。

意識的なネットワーク切り替えよう!セイリエンスを味方につける

脳のネットワークを効果的に切り替えるには、セイリエンスネットワークの特性を理解し、活用することが重要です。セイリエンスネットワークは、新しい刺激や変化に反応して活性化します。

例えば、90分の集中作業ブロックの後には、必ず物理的に席を立ち、窓の外を見ながら深呼吸をする習慣をつけています。この単純な行動が脳に「モード切替」のシグナルを送り、セイリエンスネットワークを活性化させるのです。

また、五感を意識的に刺激することも効果的です。私のデスクには小さなアロマディフューザーがあり、集中したいときはレモングラス、リラックスしたいときはラベンダーの香りを使い分けています。嗅覚刺激が脳の状態に強く影響することは、神経科学的にも裏付けられています。

音楽も強力なツールです。ワーキングメモリを活性化させたいときは、歌詞のないミニマルな音楽を。DMNを活性化させたいときは、馴染みのある心地よいメロディを選びます。

「触れるスイッチ」も導入しています。デスク上に置いた小さな植物に触れることで、意識的に「発想モード」と「作業モード」を切り替えるという習慣です。触覚刺激がセイリエンスネットワークを活性化させ、脳の状態変化をサポートしてくれます。

環境デザイン──脳をのびのび働かそう!

最後に外せないのが物理的な環境デザインです。
僕たちの脳は、思っている以上に周りの環境に影響を受けています。だからこそ、ワークスペースの設計次第で脳のネットワークの働き方がガラッと変わるんですよね。

僕は在宅することが多いのですがでは、空間を「集中ゾーン」と「発想ゾーン」に分けています。
「集中ゾーン」は、シンプルで刺激を最小限に抑えた環境。無駄な装飾は一切なし。デスクの上はPCとノートだけで、視界には余計なものを置きません。ここでは
ワーキングメモリに余計な負担をかけず、タスクに没入できる**ようにしています。

一方で「発想ゾーン」は真逆です。
リラックスできるソファ、観葉植物、アートポスターなどを配置。視覚的にも豊かでDMNがのびのび働ける空間です。色味も温かみのあるトーンにして、自然と気持ちがほぐれるようにしています。

これ、ただの気分転換じゃなくて脳科学的にも効果が実証されています。
ハーバード大学の研究によると、自然環境に触れることで認知機能が向上し、ストレスホルモン(コルチゾール)が減少することがわかっています。だから、窓から緑が見えるようにデスクを配置したり、室内に木材や石などの自然素材を取り入れたりするだけで、脳のパフォーマンスは確実に変わるんです。

さらにもう一歩踏み込んで、僕は**「デジタルデトックスゾーン」も作っています。
ここはスマホもPCも完全にシャットアウト。持ち込めるのは紙とペンだけ。
この「アナログ空間」では、手書きでスケッチやマインドマップを描くことに集中します。
デジタルデバイスがないだけで
ワーキングメモリへの負荷がぐっと減り**、DMNがより自由にアイデアを広げられるんですよね。

実際に大手広告代理店のクリエイティブディレクターがこの環境デザインを取り入れたところ、チーム全体のアイデア創出速度が1.5倍にアップ。さらにクライアント満足度も30%向上したそうです。

やっぱり「脳が快適に働ける場」を用意することが、生産性やクリエイティビティを底上げする鍵なんだなと実感しています。

大事なのは「継続して習慣化すること」

脳は使い方によって変化する「神経可塑性」を持っています。習慣的にネットワークの切り替えを行うことで、その回路はより効率的になります。つまり、意識的な脳の使い分けを続けることで、創造性と生産性の両立がより容易になるのです。

「脳のリズム」は個人差があります。朝型の人もいれば夜型の人もいるように、DMNが活性化しやすい時間帯も人それぞれです。大切なのは自分のリズムを観察し、それに合わせたスケジュールを組むことです。

私の場合、朝はDMN優位(発想)、午前中はワーキングメモリ優位(集中作業)、昼食後の短時間はDMN優位(振り返りと調整)、午後はワーキングメモリ優位(実作業)、夕方はDMN優位(翌日の計画)というリズムを作っています。

こうして自分の脳の特性を理解し、最適な働き方を設計していく習慣を身につけるのが大事です。

まとめ

私たちクリエイティブワーカーにとって、脳は最も大切な「道具」です。ワーキングメモリネットワーク、デフォルトモードネットワーク、セイリエンスネットワークという3つの主要ネットワークの特性を理解し、意識的に活用することで、創造性と生産性の両立が可能になります。

ちなみに実践すべきは以下の原則です。

  1. 発想と実行を意識的に分離し、適切な脳のネットワークを活性化させる
  2. セイリエンスネットワークを刺激し、スムーズな切り替えを促進する
  3. 脳の自然なリズムを尊重し、適切な休息と刺激の変化を取り入れる
  4. 物理的環境を脳のネットワークに合わせて最適化する
  5. 五感を通じて脳に新鮮な刺激を与え続ける

これらの原則を日々の仕事に取り入れることで、あなたのクリエイティブパフォーマンスは確実に向上するでしょう。

明日からの仕事で、ぜひあなたの脳のネットワークに意識を向けてみてください。「今はどのネットワークが優位に働いているか?」「別のネットワークに切り替えるべきタイミングではないか?」と自問自答することから始めましょう。その小さな意識の変化が、やがて大きなクリエイティブの飛躍につながるはずです。

脳のネットワークを味方につける—クリエイティブパフォーマンスの最適化

私たちクリエイティブワーカーにとって、脳は最も大切な「道具」です。ワーキングメモリネットワーク、デフォルトモードネットワーク、セイリエンスネットワークという3つの主要ネットワークの特性を理解し、意識的に活用することで、創造性と生産性の両立が可能になります。

実践すべきは以下の原則です:

  1. 発想と実行を意識的に分離し、適切な脳のネットワークを活性化させる
  2. セイリエンスネットワークを刺激し、スムーズな切り替えを促進する
  3. 脳の自然なリズムを尊重し、適切な休息と刺激の変化を取り入れる
  4. 物理的環境を脳のネットワークに合わせて最適化する
  5. 五感を通じて脳に新鮮な刺激を与え続ける

これらの原則を日々の仕事に取り入れることで、あなたのクリエイティブパフォーマンスは確実に向上するでしょう。私自身、この方法論を実践し始めてから、創造的な仕事の質と量が飛躍的に高まりました。締切前の焦りや燃え尽き症候群も大幅に減少しています。

Hee のプロフィール画像

Hee

地方でWebディレクター。コンセプトメイキングや情報設計を含めて上流工程から制作業務に携わっています。コーポレートサイト、ECサイト、自治体サイト、ブランドサイト、グラフィックなど他ジャンルを経験。多いときには20案件をもつことも。デザインメンターでは複数のデザイナーに対するデザインディレクションの経験、ブランディング提案の経験から学んだことを発信しています。