デザイナーはビジネス理解が不可欠!【デザインの価値を高める必須スキルです】
デザインはあくまでもビジネスの課題を解決する手段。だからこそ、デザイナーはつねに「ビジネスの文脈」から、デザインを生み出さなくてはならないです。
本記事では、「デザイナーはビジネス感覚を身につけるべき」という視点から、デザイナーがビジネス理解を深めることの重要性と、それによって得られるメリットについて解説します。
ビジネス理解が乏しいとどうなるか?
ビジネスの理解が乏しいデザインは、「クライアントの期待を満たす」という観点から、さまざまな問題が生じると思っています。
例えば僕の経験上、ビジネス感覚のないデザイナーは、以下のような悩みを抱える傾向にあります。
- クライアントの業界理解不足→クライアントが属す「業界」を理解できず、コミュニケーション不足に陥る。彼らが求めている要求の把握ができていない。
- クライアントに「なぜこのデザインがいいのか?」と説得できない。ビジュアル的な良さはあるにしても。
- 他部門の目標や優先事項を理解し、デザインがどのように貢献できるかを明確に伝えられない。
とくに致命的なのは1番。
「業界知識」が不足していると、クライアントとのコミュニケーションギャップがかならず生まれます。用語の誤解が生じたり、業界特有の慣習や規制を見落としたり。
そうなるとクライアントのニーズや問題点を正確に把握できなくなり、表面的に述べる要求の裏側にある”本質的なニーズ”まで深堀りすることができず、クライアントの期待を満たさない・超えない結果に終わります。
ユーザー視点から考えた場合・・・
別の側面として、エンドユーザーの視点にもかけてきます。
各業界には、ユーザー固有のニーズや課題があります。ビジネス知識かつ業界知識がないと、つまり「ユーザーが見えてない」ということですから、彼らが求めるニーズ、またそれが生まれるコンテクストを理解できなくなります。
ユーザーが見えていないとマーケティングで大切なユーザーの行動動機(なぜそのような行動をとるのか)・比較検討にともなう判断基準(なぜ他のサービスではなく自社サービスなのか)を想定できてないわけですから、デザインによる的確なソリューションを生み出せません。
デザインをするときには、とにかくユーザーの意思決定プロセスをちゃんと把握し、その背後にある価値観や心理を理解できなければ、「きれい」「かっこいい」などの表面的に優れたデザインしかつくれません。
競合他社の視点から考えると・・・
ビジネスをするうえで、必ず競合他社がいます。
ビジネス理解があると、業界内の競合他社のデザイン戦略を分析し、そこから自社のサービスの優位性を検討、差別化ポイントを見つけ出そうとします。
そもそもデザイナーにおけるビジネス理解とは?
ここではデザイナーが学ぶべきビジネスの基本をまとめてきます。
基本というくらいですから、商業活動を行う上で必要な一般的な知識や感覚レベルで問題ないです。
- 業界知識 クライアントの業界について深く理解すること。業界の動向、競合状況、規制、技術トレンドなどを把握し、その文脈でデザインの役割を考えること。
- ビジネスモデルの理解 クライアントの収益構造、コスト構造、提供価値などを理解すること。デザインがビジネスモデルにどのように貢献できるかを考えること。
- 組織構造とプロセスの理解 クライアントの意思決定プロセス、部門間の連携、社内リソースなどを理解すること。デザインプロジェクトを円滑に進めるための調整力を持つこと。
- マーケティング理解 ターゲット市場やユーザーについて理解すること。市場のニーズ、ユーザーの行動パターン、購買意思決定プロセスなどを把握し、デザインに反映させること。
- ブランド戦略の理解 クライアントのブランドアイデンティティ、ブランドポジショニング、ブランド価値などを理解すること。デザインを通じてブランドエクイティを高める方法を考えること。
- 財務の基礎知識 予算管理、投資対効果、コストパフォーマンスなど、財務の基本概念を理解すること。デザインの価値を財務的な指標で示す方法を知ること。
- コミュニケーションとプレゼンテーション ビジネスの言語でデザインの価値を伝えられること。デザインの意図や効果を、説得力をもって説明できること。
僕はとくに1と2、3は絶対に学んでおいたほうがいいです。
ビジネス理解がデザイナーにもたらすメリット
質問や意見を的確に示せるようになる
クライアントの業界について理解が不足していると、「何を聞いたらいいかもわからない」状態になり、クライアントが言う事(課題)を全部鵜呑みにしてしまいます。しかし、多くの場合、クライアントが提示する課題は本質的なものではなく、真の課題は彼ら自身も把握していない未知のものであることが少なくありません。
そのため、デザイナーがクライアントの業界、ビジネスモデル、ビジネスプロセス、顧客基盤、市場のトレンドなどを深く理解し、それらの知識に基づいて対話できるようになると、彼らと「対等に」話せるようになり、より具体的で的確な質問をすることができ、かつ、根拠に基づいた意見を述べることが可能になります。
自社の事情を深く理解し、共感してくれるデザイナーなら「このデザイナーは本当に私たちのことを理解してくれている」という感覚を、クライアントに与えることもできますよね。
一を聞いて十を知る
ビジネスに関する幅広い知識を持つことで、限られた情報からでも多くのことを推測し、深い洞察を得ることができるようになります。
つまり、ビジネスの背景知識が豊富であればあるほど、クライアントが伝えたいことの本質を素早く理解し、その背後にある様々な要因や可能性を読み取ることが可能になるのです。
例えば、クライアントが新製品の販促キャンペーンのデザインを依頼してきたとします。ビジネスの知識があれば、その製品の特徴やターゲット市場、競合状況などを踏まえ、キャンペーンの目的や期待される成果を推測できます。また、過去の類似事例や業界のベストプラクティスを参考に、より効果的なデザインアプローチを提案することもできるでしょう。
このように、ビジネス理解があるデザイナーは、クライアントとの対話の中で、表面的な要求の背後にある真のニーズを汲み取り、ビジネス課題の解決に直結するデザインソリューションを導き出すことができます。それは、クライアントとの信頼関係を強化し、デザイナーの価値を高めることにつながるのです。
提案の説得力強化/ビジネス的な議論が可能に
デザインの良し悪しは、しばしば主観的な評価に左右されがちです。特にWebサイトのデザインにおいては、クライアントの好みが大きく影響することが少なくありません。しかし、デザインの評価を単なる主観や好みに委ねてしまうと、本来のデザインの目的を見失ってしまう危険性があります。
ビジネス理解を持つデザイナーは、客観的な基準に基づいて判断し、デザインの有効性を示すことができます。
例えば、ECサイトのデザインを担当する際、購入プロセスの最適化やユーザーの離脱率低減が重要な課題となります。これらの課題に対し、直感的なナビゲーションや商品ページレイアウト設計など、「改善ポイント」を明確に示すことができます。
またデザインは「効果」が示しにくいと言われてますが、データ分析的な思考をもてるのであれば、デザインの効果を数値で示し、投資対効果を評価することもできます。例えば、ウェブサイト改善によって問い合わせが10%増加し、結果として年間売上が500万円向上したなどのデータは、デザインの価値をクライアントに明確に伝えることができます。
企業の強みという可能性を表現できる
ビジネスを理解していると「自社がどこに向かって、何のビジネスで勝負するのか」を明確に捉えることができます。ビジネスモデルを全体的に俯瞰し、企業が直面する機会と脅威を考慮に入れたデザイン戦略を提案することができます。
自社の「Strength(強み)」を深く理解することで、それを生かしたデザインコンセプトやビジュアル表現を生み出すことができます。
その上で、企業の方向性に沿ったデザインを創造することができるのです。単なる表面的なビジュアルではなく、企業のビジョンや戦略を体現するデザインは、ブランド価値の向上と顧客との強い絆の構築に貢献します。
プロジェクト管理能力の向上・社内の影響力の向上
ビジネスに精通しているデザイナーはプロジェクトの全体的な流れを理解し、デザインタスクに優先順位をつけることができます。例えば、新製品の市場導入に際しては、製品の魅力を最大限に引き出すビジュアルデザインに重点を置き、次に購入プロセスのスムーズ化を図る等の順序で進めます。このように、ビジネス目標に沿った優先順位付けにより、効率的にプロジェクトを推進することが可能になります。
社内の意思決定プロセスに参画しやすくなります。デザインの価値を経営陣やマネジメント層に伝え、組織全体のデザイン活用を促進する役割を果たします。
クライアント側には様々な利害関係者が存在します。提案を行う際には、これらの利害関係者の視点を考慮し、彼らの関心事や懸念に対してデザインがどのように応えるかを説明します。
キャリアの選択肢の拡大
ビジネススキルを身につけたデザイナーは、キャリアの可能性が大きく広がります。
事業開発、コンサルティング、マネジメントなど、様々な役割に挑戦できます。
ビジネス理解があるデザイナーは、デザインの枠を超えて、経営の中核を担う存在として活躍の場を広げることができるのです。デザインとビジネスの両方の知見を活かして、新たな価値を創造するリーダーとなることができます。
あるいは事業会社だけでなく、コンサルティングファーム、ベンチャー企業、独立など、様々なキャリアパスが開けてきます。
ビジネス理解がもたらす新しいデザイナー像
しばしばデザイナーはクリエイティブな役割(ビジュアルをつくる人)に限定されがちですが、実際、彼らが果たせる役割はもっと広範囲、というのが僕の持論です。
広範囲というのは、下記のようにさまざまな役割を担えるからです。
- 問題解決者としてのデザイナー
- 戦略的思考者としてのデザイナー
- イノベーションの推進者としてのデザイナー
- 組織文化の醸成のデザイナー
問題解決者としてのデザイナーとは
デザイナーは企業内の経営陣やマネジメント層では考えられない切り口から、今後企業としてどんな方向に進んでいったらよいのか?という「新しいアイデア」や「コンセプト」を生み出すことができます。
彼らは、従来の枠組みにとらわれない視点から、製品開発やサービス提供の方法を再考し、市場に新風をもたらします。デザイン思考は、イノベーションのプロセスにおいて重要な役割を果たし、企業が新たな機会を掴む助けとなります。
ただ事情として、僕の周りの多くのデザイナーを見ていると、ビジネスの知識(マーケティング的な考え方、ブランディング)や経験に乏しく、ビジュアルを担当する人、としての範囲を越境できていないと思っています。
だからデザイナーとしての出発点「問題解決者」という観点から強いデザイナーになれると思っています。
戦略的思考者としてのデザイナー
デザイナーは単なるクリエイターではなく、戦略的思考者としての役割を果たすことが求められていると思っています。
戦略的思考者とは、デザインによって達成すべきビジネス目標を理解し、それに資するデザイン施策を立案し達成に向けて会社全体を舵取りできる人材です。
そんなデザイナーは
- 市場トレンドの分析
- 競合他社のデザイン戦略を分析し、自社の強みを活かした差別化
- 企業のミッション、ビジョン、バリューを理解し、それらを体現するデザイン
- ユーザー視点に立ち、使いやすさ、楽しさ、満足度を追求したデザイン
こうした視点をつねにもつことができます。デザイナーが戦略的に関与することで、ビジネスの持続可能な成長と競争力の強化が促進されます。
イノベーションの推進者としてのデザイナー
昨今デザイン思考、という言葉が生まれていますが、デザイナーはビジネスにおいてもイノベーションを推進する重要な役割を担っていると思っています。なぜなら彼らはマーケター畑で数字に追われているわけではなく、もっと自由な発想から新しいアイデアやコンセプトを生み出す力があるからです。
例えば、僕はデザイナーは「問題の再定義」がプロだと思っています。既存の問題をデザイナー独自の視点で捉え直し、真の課題を見出します。要は従来の常識や制約にとらわれず、問題の本質を探ることができ、それを「デザイン」という視点から新しいソリューションの可能性を見つけ出せるからです。
あるいはプロトタイピングをつくるのもうまいです。問題の再定義から、アイデアを見つけ出したら、素早く形にすることもできます。ユーザーからのフィードバックを得ることで、イノベーションを推進します。
デザイナーが中心となって、共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイピング、テストの5つのステップを繰り返すことで、革新的な製品やサービスが生まれます。