“とりあえずアイコン置く”が招く、情報設計としてのアイコン
デザインの現場にいると、些細なパーツが大きな意味を持つ瞬間に出会うことがあります。僕が忘れられないのは、外部デザイナーが制作したアイコンが、クライアントから厳しく指摘を受けた出来事です。
案件内容は、新しいサービスページのリニューアル。構成や原稿内容は順調に進み、カテゴリ説明用のアイコン制作をデザイナーに依頼しました。
- 姿勢改善
- コンディショニング
- ライフスタイル改善
- リラクゼーション
そんな分類に合わせて、デザイナーからアイコン案が上がってきました。
一見すると「整っている」「きれいに揃っている」。
しかしクライアントチェックの段階で、予想外の言葉が返ってきました。
「このアイコン、本当に意味を考えて作られていますか?実態を全く反映していません。」
僕自身も、その瞬間ハッとしました。形として破綻しているわけでもない。並べればそれっぽく見える。でも、意味がない。
まさにそこを突かれたのです。
■アイコンひとつにも“何を伝えるか”が宿っています
クライアントは続けて、こう説明してくれました。
「例えば“姿勢改善”といっても、猫背、反り腰、巻き肩…と状態は全く別なんです。利用者は“自分の悩みがどこに当てはまるか”を知りたいんですよ。」
つまり、アイコンは単なるイラストではなく、悩みを分類する“瞬間的に意味を伝える要素”であるということです。
ところがデザイナーが描いたアイコンは、すべて“平均的なイメージ”の範囲で作られており、本来伝えるべき
- 状態の違い
- 悩みの特徴
- どこを改善できるのか
といった“意味”が一切組み込まれていませんでした。
デザインの世界にいると、どうしても“目立つもの”に意識が吸い寄せられがちになってしまいます。
メインビジュアル、キャッチコピー、斬新なレイアウト、写真のトーン……。
こうした要素が整うと、“側”はとても良く見えます。
ただし、どれだけ見た目が良くても、それぞれにしっかりと“意味”が宿っていなければ、本質的には伝わらないデザインのままです。
■アイコンひとつにも“何を伝えるか”が宿っている
僕が今回の経験で学びになったのは、アイコンはただの飾りではないということです。これはまず忘れてはいけないこと。アイコンとはあくまで 「一瞬で情報を伝えるために凝縮された“意味”」 そのものだと考えております。
例えば、小さな図形の中には、次のような要素が詰め込まれています。
- 何を示すのか(概念)
- どういう状態なのか(ニュアンス)
- どこに意識を向けてほしいのか(目的)
たとえ1cmの小さなアイコンでも、これだけの情報が入り込んでいます。
つまり、“何を伝えたいか”が決まらないうちは、アイコンは決めてはいけないのです。
逆に言うと、その意味を考えずにアイコンを配置しているとしたら、それはデザインではなく、ただの“飾り付け”になってしまいます。
■アイコンは“瞬間的に理解させるための言語”です
ここがとても重要で、深掘りする価値があります。
言語とは、本来「概念を共有するための記号」ですよね。
アイコンもまったく同じく、概念を一瞬で伝えるための“視覚言語” です。
たとえば:
- 「左右差」という概念
- 「ふくらみ」という概念
- 「高さ」という概念
これらは文章で説明すれば数行かかるところを、
アイコンであれば一瞬で伝えることができます。
言語としての特徴を踏まえると、アイコンにも当然以下が当てはまります。
- 文脈によって意味が変わる
- 曖昧さを残すと誤解される
- 適切な語彙(=形)の選択が必要
- 受け手の知識や経験によって解釈が変わる
つまり、「アイコン=言語」である以上、意味の設計なしに置くのは、文法も語彙も考えずに文章を書くのと同じことなのです。
■アイコンは言語です。では、デザイナーは何をすべきか?
アイコンが“視覚言語”である以上、デザイナーが向き合うべきは 「形を描くこと」ではなく「意味を設計すること」 になります。では、実際にどのような行動を取ればいいのでしょうか。
ここでは、明日から実践できる 7つの具体的なアクション に落とし込んで整理します。
✔︎ 1. まず「何を伝えるアイコンか」を言語化する
アイコン制作の前に、必ず1〜2行で “概念の定義” を書き出します。
例:
- 「猫背改善 → 背中が丸まった状態を示す」
- 「巻き肩 → 肩が内側に入り込んでいる状態」
この一手間だけで、アイコンの精度は劇的に上がります。
✔︎ 2. 伝えたい状態を「図解化」してみる
いきなりアイコンを描くのではなく、ざっくりとした図解(メモレベルのラフ) を描きます。
ポイントは、
・どこが問題なのか
・どの方向にずれているのか
・どの部分を強調したいか
を目で理解できるようにしておくことです。
✔︎ 3. “抽象度”を先に決める
アイコンは抽象すぎても具体的すぎても誤解されます。
そのため、制作前に「抽象度のレベル」をチーム内で揃える 必要があります。
例:
- リアルすぎる → 医療図に見える
- 抽象すぎる → 意味が伝わらない
- ほどよい単純化 → 最も誤解が少ない
基準を先に決めるだけで、後工程のズレが激減します。
✔︎ 4. “何と何を区別したいのか”を明確にする
アイコンは“区別”のためにあります。そのため、以下を明確にします:
- このアイコンは何と違うのか?
- どこが違いとして重要なのか?
- どの要素を強調すれば区別がつくのか?
区別のポイントが決まれば、線や角度の使い方が明確になります。
✔︎ 5. 「初見の人に説明できるか?」でテストする
意味設計が正しいかどうかは、“初見の人がどう感じるか”で必ず確認します。
- 社内の別チームに見せる
- 1秒だけ見て「これ何?」と聞く
- どの部分が分かりやすいか/分かりにくいかフィードバックをもらう
ここでズレが大きいほど、意味の設計が足りていません。
✔︎ 7. 最後に「言語→アイコン」の整合性をチェックする
つまり、最初に書き出した「概念の定義」とアイコンが一致しているか?これを確認します。
- 意図していないニュアンスが入っていないか
- 誤解される可能性がないか
- 同じシリーズのアイコン間で整合性があるか
ここを丁寧に確認すると、完成度が一段階上がります。
■まとめ:アイコン制作は“意味の翻訳作業”です
アイコンを作るということは、
概念 → 視覚言語 への翻訳です。
つまりデザイナーは、
- 意味を読み解き
- ニュアンスを整理し
- 情報を取捨選択し
- 形に翻訳し
- 誤解のないよう調整する
というプロセスを踏む必要があります。
アイコンを“ただの絵”として扱うのではなく、
言語として扱うこと。
ここを意識するだけで、デザイン全体の質が大きく変わります。